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ネコ害問題(その3)目黒ルール   2004/11/10

 「ネコ好き派の人たちから抗議が殺到してもう大変なんですよ」。全国から注目される「目黒区・猫の飼育ルール」が公表されてから2週間。反響を問い合わせると、電話の向こうでネコ担当職員(目黒保険所)はげんなりした声を出した。「抗議?それは意外なことを聞きますね」と私。「ええ、私らも意外です。地域ネコを世話する人たちをきちんと評価しようとするのが今度の『猫の飼育ルール』作りの目的だったのですからね。ネコ嫌い派に偏向していると言われるなんて思いもしなかった・・・」。

 各地で深刻になっている野良ネコ問題を考える手始めに、このコーナーで行政の動きを概観してきた。まず、動物愛護管理法の改正作業に取り組む国(環境省)、それからこれからの行政の関わり方を模索する中間自治体(都庁)。当然3回目はホットコーナーの第一線自治体(区市町村)なのだが、どうも地元の北区は動きが少なそうだ。困ったな、と思っているうちに時間が経ってしまった(続報が遅れてすみません)。そうこうするうちに目黒区が10月25日、ネコの適正飼育ガイドラインとして上記の「目黒区ネコの飼育ルール」を公表したのだった。 

 通信社が全国配信したこともあって今や列島注目の的となっている目黒のガイドラインはA4判17ページ。目黒区役所http://www.city.meguro.tokyo.jp/や関連施設で配布している。同区が獣医師会、町会連合、ボランティアらによる制定委員会を設けて議論を尽くして策定したもので「飼い猫」編と「ホームレス猫(地域猫)編」に分かれている。浮間3丁目児童遊園の問題はホームレス猫にかかわるものだから地域猫編を中心に見ていこう。

 まず地域猫という考え方の説明、活動の紹介があり、「地域猫活動に温かい手を」という項目もある。さらに「制定にあたって」という項目では地域猫活動を行うボランティアについて「無責任なエサやりと区別がつきにくいこともあり、周囲から誤解をうけないように、こっそりと活動しているケースが多いようだ」と同情を寄せている。目黒区内で激増しているネコがらみの苦情、地域トラブルの解決には地域猫活動の活用こそ有効という意識が強く伝わる構成だ・

 注目されるのはその上で<「かわいそう」でエサを与える行為は大間違い>の大原則を掲げて地域猫活動のルール10か条を挙げた点だ。「地域住民の理解が不可欠」「置きエサはしない」「環境美化への配慮」「不妊・去勢手術を行う」「猫の病気予防等の健康管理」「世話する猫の識別」など細かいルールが盛り込まれている。

 私がこのルールを一読して目黒区の担当者に聞いてみようと思った第一の点は「あまりに住民に対して期待過剰ではないか」ということだった。東京の住民運動の歴史を振り返ってもここで要求されるほどのエネルギーを住民らが振り絞った運動の例はあまりないのではないか。第二に「地域猫のボランティア活動に対してほとんど飼い主に準じた飼育義務を求めるような厳しさでは地域住民による運動が形成されていくものだろうか」という疑問である。元凶のエサやり人さえ捕捉されていないのが浮間ケースの現実だ。あまりに空想的理想主義ではないか、ということだが、関連して「一般的な意味で明らかな不法行為と言える無責任なエサやり行為に対して住民にはどこまでの受忍義務があるかこのガイドラインで明快に説明することは可能だろうか」という問いである。動物愛護は社会共通の目標であるにしても、生きながらえるホームレス猫の一方で都内だけで年間1万匹のネコが殺処分され、深刻なネコ害に悩む人間様が多数居るのも現実なのだ。

 さらに言えば、環境省の有識者会議でネコ起因感染症と地域活動の責任論などをあまり雑駁に議論されては住民はどこへ向かえばいいのかわからなくなるが、一線として責任を取れるのか、などなど聞きたいことは多々あったが今回は深い追求はやめた。冒頭紹介したように目黒区の担当者がさらされた立場が意外だったのと、その状況でもなんとか住民の間に分け入って問題を解決していきたいという第一線行政マン(男性職員でした)の心意気に打たれたからだ。

 それにしてもなぜネコ好き派から抗議が殺到しているのだろうか。どうもホームレス猫よりも「猫は屋内飼育が基準」とした飼い猫編に多くの原因がありそうだが、今回は立ち入らない。「一つ間違えば飼育ルールはただの紙切れです」。ルール策定と同時に発足させた「都会の猫を考える会」をテコに施策の実現を図ろうと奮闘する目黒のネコ担当職員らにエールを送り、ネコ問題行政編をとりあえず終わりたい。

  【関連事項】 都会にふさわしい猫の飼い方